郷 友 俳 壇


令和6年3・4月号より 
 エンジン音 響かせ初船 毛馬閘門 大阪   石原一則
 砂船の 水脈に揺れゐる 浮寝鳥
 仄暗き 参道虫の 声絶えず 佐賀  一ノ瀬恵昭 
 散紅葉 昨日のことの はるかなり
 大楠の 樹齢千年 初御空 神戸   鬼本英太郎 
 巫女の舞ふ 鈴の音美しき 初神楽
 軒先に 冬菜干しある 生活かな 相模原 折口桂子
 ささ流る 岸の冬草 瑞々し
 健やかな ことひた願ふ 去年今年 埼玉  川村和栄 
 能登地震 互助の声上ぐ 成人式
 曾孫抱き 四代揃ふ 初詣 あきる野 小和田一男
 寒の灯の 代々木八幡 寂として
 初富士を 西に拝む 書斎かな 館山  斎藤一向 
 頃合の 賀状乗せ来る バイクかな
 寒見舞 負けてたまるか 能登地震 小林  高木智念
 何事も 無きこと謝する 大旦
 静かなる 眼光鋭き 初稽古 相模原  辰巳一郎 
 取り敢へず 薬一服 薬喰
 初日の出 見逃す寝起き 卒寿なる 町田  永野節雄 
 暖房の 目盛上げをる 寒さかな
 元朝や 地上の平和 ひた願ふ 目黒  並木桂子 
 若水や 老いを忘れて 生き抜かむ
 薄ら日の 揺らめく水面 鳰の笛 新宿  濱井朋子 
 いと小さき お地蔵様の 背の冬日
 虫食ひの 仁王の脚の 冬日かな 入間  藤井功風 
 踏み砕き ゆく柚子山の 霜柱
 冬ざれや 決りの多き 隠れ里 小牧  松岡魚青 
 好ましき 若狭へ掛かる 冬の虹  
 茫々と 枯野の先の 日本海 浜松
宮本立男 
 容赦なく 雪の降り継ぐ 被災の地
 煩悩を 絶つこと難 し除夜の鐘 船橋  天本宏太郎 
 何となく 人の恋しき 虫の夜
 放つ矢の 霊気劈く 弓始 選者  有馬澄廣

令和6年1・2月号より 
 山門は 風の入口 萩揺るる 船橋    天本宏太郎
 登高や 汽笛の響く 港町
 温暖化 秋は年々 萎びをり 大阪   石原一則
 御講凪 未だ黄ならず 大銀杏
 ものの影 濃き望月の 夜道かな 佐賀  一ノ瀬恵昭 
 蔵町を 薄日さへぎり 秋深む
 おだやかに また年重ね 石蕗の花 日高  岡崎布喜子 
 車止め 言葉交せる 枯木立
 奥深き 町家の路地や 八つ手咲く 神戸   鬼本英太郎 
 壁剥がる 宿場の裏手 冬菜畑
 腕組みを して丹精の 菊を観る 相模原 折口桂子
 信濃平野 抱き浅間山の 冬に入る
 急かされて 衣整へ 冬に入る 埼玉  川村和栄 
 初冠雪と 便りの届く 頃となり
 霊山の 冷え冷えとして 今朝の霜 今治  畴谷白涛  
 稲田減り 出番少なき 耕耘機
 稜線の 優しき浅間山 秋深し あきる野 小和田一男
 鉄橋に 電車を停む 渓紅葉
 花八つ手 人影の無き 裁判所 館山  斎藤一向 
 天平の 刻偲ばるる 後の月
 鳴き交はす 鵯にもありぬ 相聞歌 小林  高木智念
 それぞれが 互み引き立て 秋桜
 童唄 口遊みゆく 落葉道  相模原  辰巳一郎 
 ゆくりなき 時雨に遊ぶ ホ句の旅
 「あれあれ」に 「六甲おろし」の 冬ぬくし 町田  永野節雄 
 朝寒や 日のさし昇る 散歩道
 狸穴の 暗闇坂てふ 十三夜 目黒  並木桂子 
 桶の音 響く銭湯 十三夜
 銘仙に 栄へし古道 草紅葉 入間  藤井功風 
 秋蝶の 影のすげなく 消えにけり
 雨の間に 余念を捨てて 松手入れ 小牧  松岡魚青 
 休耕田に 色の揺れ合ふ 秋桜
 返り花 会うて嬉しき クラス会 浜松
宮本立男 
 ふるさとに 父母の無く 返り花
 神南備を 鳶の高舞ふ 小春かな 選者  有馬澄廣

令和5年11・12月号より 
 富士の嶺を 隠し広ごる 秋の雲 浜松   宮本立男
 霧島岳の 火口湖巡り 草紅葉
 沙羅の花 日々好日の わが余生 船橋    天本宏太郎
 炎昼や 鉄の匂ひの 鉄工所
 雨上がり 日に耀へる 蜘蛛の糸 大阪   石原一則
 雉鳩の よく鳴く朝の 秋の池
 蒲の穂の 揺れゐるばかり 森の池 佐賀  一ノ瀬恵昭 
 蔵町の 水路干上がる 秋暑し
 馴染みたる 単線の駅 雲の峰 日高  岡崎布喜子 
 墓参り 姉と語らふ 里ことば
 抱一の 生涯ここに 葛の花 神戸   鬼本英太郎 
 中秋や 文箱に遺る 母の筆
 一息を 入れ経唱ふ 秋遍路 相模原 折口桂子
 子猫等に 遊ばれてゐる ねこじゃらし
 甲子園に 少年の夏 果てんとす 埼玉  川村和栄 
 街並みを 外れて湧ける 雲の峰
 瀬戸内の 島々染むる 大夕焼 今治  畴谷白涛  
 酷暑の日 はつたと睨む 鬼瓦
 秋暑し 遠見の富士の 模糊として あきる野 小和田一男
 折鶴の 色の褪せゐる 原爆忌
 ドクターヘリ 北へ飛び立つ 秋思かな 館山  斎藤一向 
 小さめの 零余子は摘まず 戻しけり
 走り蕎麦 椎葉に残る 火入れの義 小林  高木智念
 九体仏 一尊空位 秋の風
 露の世や 生くるに難き 濁世かな  相模原  辰巳一郎 
 残さるる ことも定めや 露しぐれ
 虫しぐれ 木彫りの荒き 円空仏 横浜 永澤 功 
 子規庵の 狭きくぐり戸 萩の風
 紅白の 芙蓉の映ゆる 路傍かな 町田  永野節雄 
 川縁の 草薙ぎ倒し 秋出水
 祖父に続き 三世揃ひて 墓参り 目黒  並木桂子 
 盆棚に 子らの土産の 鳩サブレ
 瀧音に 舞ふ病葉の きりもなし 入間  藤井功風 
 開閉の 羽根律をなし 河蜻蛉
 手を強く 握りし孫や 稲光 小牧  松岡魚青 
 踊り果て 社のやぐら 闇深し
 山内に しみじみと聴く 法師蝉 選者  有馬澄廣


令和5年9・10月号より 
 豪農の 庭にはびこる 小判草 小牧   松岡魚青
 緑陰を 恋しと思ふ 季来る
 筑波嶺の 裾に広がる 青田かな 浜松   宮本立男
 広々と 関東平野の 青田かな
 心まで 緑に染むる 若葉かな 船橋    天本宏太郎
 瞼閉ぢ 聴く囀と 水の音
 雨重り して艶失せず 合歓の花 大阪   石原一則
 夏霧に 墨絵の如き 延暦寺
 ただ一人 ゆく林道の せみしぐれ 佐賀  一ノ瀬恵昭 
 海望む 丘の径や 獺祭忌
 夕風に 大きく揺るる 花菖蒲 日高  岡崎布喜子 
 孫子来て 賑はひ募る 盆祭
 十薬や 村の駐在 人を見ず 神戸   鬼本英太郎 
 梅雨深し 画廊に掛かる 銅版画
 息災を 拝みくぐる 茅の輪かな 相模原 折口桂子
 灯籠の 銘も覆へる 苔の花
 三年の時 経て迎ふ 夏祭 埼玉  川村和栄 
 夏めける 街の日差しを 眩しめる
 蛍火の 相寄り消えし よりの闇 今治  畴谷白涛  
 マンシヨンの 窓に優しき 青田風
 麦藁帽の 破るるを ファツシヨンとし あきる野 小和田一男
 咲き分けの 桔梗の揺るる 狭庭かな
 真榊の 祓ひて禰宜の 海開き 館山  斎藤一向 
 電柱の 細き片陰 辿りゆく
 神の牛の 尿憚らぬ 御田植祭 小林  高木智念
 刈るまでは 安堵はならぬ 稲の花
 のけぞりに 空蝉すがる 地蔵かな 横浜  永澤 功 
 葉に憩ひ 旅人めくや 川とんぼ
 鯉跳ねる 水音響く 夏至の朝 町田  永野節雄 
 梅雨明けを 心待ちして 空見上ぐ
 津軽富士の 空の碧恋ふ 青りんご 目黒  並木桂子 
 青りんごの 出荷見送る 一家族
 どの家も 辛夷咲きゐる 過疎の村 入間  藤井功風 
 一両の 電車とことこ 行く春田
 夏山路 草の深きに 破れ祠 相模原  辰巳一郎 
 身の丈に 生きむと老いの 更衣
 荒梅雨に 背山烟れる 御堂かな 選者  有馬澄廣


令和5年7・8月号より 
 茅葺の 釈迦堂寂と 残花散る 江の島  堀田裸花子
 蕉翁を しのぶ最上の 風薫る
 ゆつたりと 鳶の舞ひゐる 春の空 小牧   松岡魚青
 落日を 浴びて紅増す 八重桜
 万緑の 中に溢るる 露天風呂 浜松   宮本立男
 万緑の 真つ直中を ケーブルカー
 西行を しのぶ吉野や 花吹雪 船橋    天本宏太郎
 春潮を 大きく跨ぎ 四国路へ
 実家より 届きし鯨の 幟立つ 大阪   石原一則
 神門を 潜れば芍薬 宮参り
 菜の花や 雲白く行く 潦 佐賀  一ノ瀬恵昭 
 菜の花や 小川の隔つ 県境
 晴天や 一駅歩く みどりの日 日高  岡崎布喜子 
 声弾む 下校の子等に あやめ咲く
 煉瓦なる 東京駅舎 花の雲 神戸   鬼本英太郎 
 摩天楼 望む皇居に 囀れり
 大凧の 題字は「令和」 風を待ち 相模原 折口桂子
 子等巣立ち 紅寂し 冑の緒
 儚さを 秘め雨に散る 桜かな 埼玉  川村和栄 
 産土の 参道に映ゆ 花海棠
 延段へ 木漏れ日の差す 森若葉 あきる野  小和田一男 
 アルプスを 背に山の 若葉映ゆ
 満開を 湖水に揺らす 桜かな 今治 畴谷白涛 
 満開の さくら俯瞰の 天守閣
 人住まぬ 館の庭の 余花白し 館山  斎藤一向 
 夏落葉 踏みて遠富士 拝しけり
 湾望む 雀隠れの 台場跡 小林  高木智念
 白雲の 湧き立つ故山 夏来る
 白毫の 三世仏在す 春の寺 横浜  永澤 功 
 鐘楼門 潜り大樹の 青葉闇
 鯵しらす 食ぶ湘南の 海静か 町田  永野節雄 
 上鰻 卒寿迎へし 祝膳
 仁王門 甍を越ゆる 鯉幟 目黒  並木桂子 
 老鶯の 不動の杜に 立て続け
 秩父嶺を 四囲にめぐらせ 花の寺 入間  藤井功風 
 遠目にも 道とおぼしき 花並木
 花桐の 香に遠き日の 誌を偲び 選者  有馬澄廣


令和5年5・6月号より 
 山塊の 血潮を落とす 冬の滝 入間  藤井功風
 雑木山 何やら床し 笹鳴ける
 春潮の 崩れむとして 浅葱色 江の島  堀田裸花子
 寺守の 丹誠込めて 垣繕ふ
 笹鳴の 一声なれど 心足る 小牧   松岡魚青
 春浅し 波を立てずに 鯉動く
 春潮の 伊良湖岬に フェリー着く 浜松   宮本立男
 春の海 島に一人の 小学生
 禅僧の 作務黙々と 冬の朝 船橋    天本宏太郎
 今年こそ 結願せむと 初社
 寒鮒を 神饌とし供ふ 朝の市 佐賀  一ノ瀬恵昭 
 咲き満てる 梅を目白の 見逃さず
 世の変転 知るや知らぬや 福寿草 日高  岡崎布喜子 
 遠足や 老い賑やかに 山路ゆく
 路地裏の 雪垂る音 とどまらず 神戸   鬼本英太郎 
 大阿蘇の 昼月烟る 野焼かな
 掌に包み 温めをりし 木彫雛 相模原 折口桂子
 桃の日や 久に睦びし 三姉妹
 越冬の 白鳥の群 北へ発つ 埼玉  川村和栄 
 乳母車の 子の目の澄める 春の風
 リード引く 犬の力や 草萌ゆる あきる野  小和田一男 
 啓蟄の 畑へ打ち込む 鍬光る
 梅林の 香に誘はれ 一人旅 今治 畴谷白涛 
 梅満開 姿を見せず 鳥唄ふ
 ビニールの 傘連ねゆく 菜種梅雨 館山  斎藤一向 
 如月や 村にみどり児 誕生す
 水取や 戦の絶えぬ 小さき星 小林  高木智念
 野を焼くや 燻る中の 蕗の薹
 春寒し 地獄絵掲ぐ 焔魔堂 横浜  永澤 功 
 ベイブリッジを 揺るがすごとく 春の雷
 川土手の ウオークの径の 春うらら 町田  永野節雄 
 靖国の 開花を待ちて 人集ふ
 家囲む 古木の槇を 剪定す  目黒  並木桂子 
 剪定の 後の果樹園 日の溢れ
 三味の音の 洩れ来る路地の 夕おぼろ 選者  有馬澄廣

令和5年3・4月号より 
 ふるさとの 壺漬添へし 雑煮膳  目黒  並木桂子
 葉を付けし 橙飾り ゐる書棚
 枇杷の花 盛りなれども ひそとして 入間  藤井功風
 柚子畑に 木の葉きりなく 降り込める
 水天の 龍神今に 年新た 江の島  堀田裸花子
 遠富士の 雄姿を惜しむ 冬霞
 杉玉を 掲げし蔵の 花八ツ手 小牧   松岡魚青
 幾月も 訃報知らずに 師走かな
 若き日の 思い出雪の 槍ケ岳 浜松   宮本立男
 山小屋の 薪ストーブの とろとろと
 背を正し 歩幅ひろげて ゆく枯野 船橋    天本宏太郎
 冬晴や 病窓にある 日の温み
 密を避け 昼に鐘撞く 除夜会かな 大阪   石原一則  
 産土へ 長蛇厭はず 初詣
 由来碑の 残る社の 石蕗の花 佐賀  一ノ瀬恵昭 
 干拓地 男ひとりの 冬田打つ
 うから寄り 賑はう二日の 奥座敷 日高  岡崎布喜子 
 松過ぎや マスクして礼 交しをり
 初漁の 船に群れゐる 鴎かな 神戸   鬼本英太郎 
 手毬つく 三和土の遺る 町屋跡
 富士を染め 海原を染め 初茜 相模原 折口桂子
 何処から となく子等の声 羽根日和
 参道に 花明りして 石蕗揺るる 埼玉  川村和栄 
 決意秘め 塾へ通へる 受験の子
 年賀状 仕舞ふ便りに 思ひ馳せ あきる野  小和田一男 
 ふるさとに 鐘の音渡り 年明くる
 初乗は、 二両編成 内房線 館山  斎藤一向 
 初渚 開祖日蓮 神楽石
 残心の 立居の凛と 弓始 小林  高木智念
 初芝居 一本刀 土俵入
 白銀の 富士蒼天に 淑気満つ 横浜  永澤 功 
 初旅や 日向薬師に 詣でけり
 ウオーク路の 社にまずは 初詣 町田  永野節雄 
 七草として 青菜浮く 粥啜る
 初旅の 峠路に富士 迫り来る 選者  有馬澄廣

令和5年1・2月号より 
 閉づと云ふ 店に贖ふ 暖房器 町田  永野節雄
 霜月の朝 一穢なく 晴れ渡り
 四辻の お地蔵さまの 小春かな  目黒  並木桂子
 住む町を 臨む高きに 登りけり
 冬紅葉 棚田に影を なしにけり 入間  藤井功風
 遠望の 雪嶺となる 奥穂高
 冬日燦 社殿の裏の 政子石 江の島  堀田裸花子
 闘病の 妻の微笑み 今朝の冬
 啄木鳥の 餌を捕る音の 鳴りやまず 小牧   松岡魚青
 枝毎に 彩を違へて 柿熟るる
 大根を 筑波嶺よりの 風に干す 浜松   宮本立男
 初時雨 にはかに濡るる 石畳
 結願の 余韻に浸る 秋遍路 船橋    天本宏太郎
 秋天へ 笛の音高く すきとほる
 疫避けて 菊鉢となる 手水かな 大阪   石原一則  
 朴落葉 羅漢の肩に どつと落つ
 初紅葉 苔むす鯉の 供養塔 佐賀  一ノ瀬恵昭 
 海神の 朱殿の杜の 秋の蝉
 菊囲み 集う友等の 若やげる 日高  岡崎布喜子 
 一枝を 折り子に諭す 菊のこと
 定紋を 素風に晒し 陣屋跡 神戸   鬼本英太郎 
 本陣の 書院の松の 色変へず
 親しげに 小鳥来てゐる 十字墓 相模原 折口桂子
 秋蝶の 舞の華やぐ ハーブ園
 淑やかに 童女札受く 七五三 埼玉  川村和栄 
 ひらひらと 家路に落ちる 一葉かな
 天高し 城下俯瞰の 天守閣 今治  畴谷白波 
 皮ぐるみ 食す無花果 給はりぬ
 ハンドベル 心地良き音の 花野かな あきる野  小和田一男 
 秋色の 湖上に映ゆる 丹の鳥居
 晩鐘の 長き余韻や 暮の秋 館山  斎藤一向 
 冬日射し 素顔の火照り 覚えけり
 鳶の輪の 上に鳶の輪 秋高し 小林  高木智念
 匂ひ立つ 御所の松ケ枝 色変へず
 堂ぬちの 薬師三尊 山粧ふ 横浜  永澤 功 
 ひとり居は 言葉忘るる 火の恋し
 潮鳴りの 波止に人見ず 冬近し 選者  有馬澄廣

令和4年11・12月号より 
 秋灯や 卓袱台見ゆる 古本屋  横浜  永澤 功
 秋蝶の いのち一途に 崖に沿ひ
 朝焼や 西に残れる 月淡し 町田  永野節雄
 店頭の 秋刀魚に夕餉の 卓おもふ
 新米の 袋揃ひし 道の駅  目黒  並木桂子
 田仕舞の 煙の靡く 魚野川
 おかめ笹 生ふに任せて 滝落とす 入間  藤井功風
 石垣は 村の名残や 黒揚羽
 鈴虫や 患ふ妻の 寝息聴く 江の島  堀田裸花子
 木洩れ日に 恋語るかに 秋の蝶
 藍色の 匂ふ絞りの 夏暖簾 小牧   松岡魚青
 古墳群 蔵する山や 額の花
 蝉時雨 一族だけの 山の墓 浜松   宮本立男
 校内に 残る兵舎や 蝉時雨
 延命は せずと約束 生身霊 船橋    天本宏太郎
 緑蔭や この静けさの 懐かしく
 床下に 妣の鈴虫 逃げて鳴く 大阪   石原一則  
 秋驟雨 篝の爆ぜる 管弦祭
 ゆくりなく アリア聴く駅 涼新た 佐賀  一ノ瀬恵昭 
 野分雲 自然に抗ふ 術知らず
 教材の 鬼灯熟るる 校舎裏 日高  岡崎布喜子 
 散策の 牧場群れ翔ぶ 赤蜻蛉
 赤富士に 鏡のごとき 山湖かな 神戸   鬼本英太郎 
 啄木鳥や 森の文豪 記念館
 秋天や 天守聳ゆる 城下町 相模原 折口桂子
 虫集く 埋め戻されし 遺構跡
 甲子園に 夢追ふ球児の 夏果つる 埼玉  川村和栄 
 品格の 色淡くして 百日紅
 コロナ踏み 消さんと励む 阿波踊 今治  畴谷白波 
 台風の 逸れて旧家に 虫集く
 尼寺に 炊きの匂ふ 秋の暮 あきる野  小和田一男 
 アルプスの 池塘に映る 夏の雲
 推敲の 一語の浮かぶ 鱗雲 館山  斎藤一向 
 海坂は もとより知らず 虫時雨
 送火や 五山を禊ぐ ざんざ降り 小林  高木智念
 寝所に 海鳴り届く 野分前
 鯊釣の 天蚕糸に 乱れ雲 選者  有馬澄廣

令和4年9・10月号より 
 現世に 絶えぬ戦火や 青葉木菟  小林  高木智念
 匂ひ立つ 茅の輪潜りて 疫を祓ふ
 沙羅落花 浄土へ還る 色となり  横浜  永澤 功
 花合歓や ガス灯ともる 港町
 梅雨深し 元宰相の 訃を悼む 町田  永野節雄
 緑蔭の 童の像の マスクかな
 鬼灯の 一つ熟れゐる 外流し  目黒  並木桂子
 ほおづきや 恩師の庭の 垣添ひに
 菩提樹の 皐月闇なす 薬師堂 入間  藤井功風
 ひとしきり 茅の輪を前に 立話
 神主の 代替りせる 海開き 江の島  堀田裸花子
 富士仰ぐ 島の仲見世 水を打つ
 片陰に 身支度正し 門潜る 小牧   松岡魚青
 木の間透く とぎれとぎれの 植田かな
 無住寺の 朽ちし土塀の 夾竹桃 浜松   宮本立男
 木曾宿の 深き庇の 吊忍 
 現世の 理不尽怒るか 雲の峰 船橋    天本宏太郎
 ひたむきに 巣づくり励む つばくらめ
 あかときの 塒へ急ぐ 蚊喰鳥 大阪   石原一則  
 白昼を 避くる散歩や ねずみもち
 石門の うすむらさきの 額の花 佐賀  一ノ瀬恵昭 
 花菖蒲 風受け流す 日和かな
 茶の友の 言葉少なに 夏座敷 埼玉  岡崎布喜子 
 高速の ドライブウエイや 雲の峰
 雨伝ふ 金剛杖や ほととぎす 神戸   鬼本英太郎 
 水打てる 村を貫く 札所道
 門柱の 煉瓦寂びゐる 額の花 相模原 折口桂子
 見上ぐれば 七つ八つと 棗の実
 生き生きと 園児ら植うる 甘藷かな 埼玉  川村和栄 
 携帯扇風機 持ち電車待つ 女学生
 渇水の ダムの潤へる 男梅雨 今治  畴谷白波 
 乱立の ビル街に雷 轟ける
 子燕の 口開けて待つ 無人駅 あきる野  小和田一男 
 滝しぶき 浴びるほかなき 苔の巌
 足裏より 地響き伝ふ 滝仰ぐ 館山  斎藤一向 
 大夕焼 鏡ケ浦を 染上げて
 梅雨鴉 声のくぐもる 杜暗し 選者  有馬澄廣

令和4年7・8月号より 
 弓なりの 初夏の渚や 真砂女句碑 館山  斎藤一向
 なみなみと 水のつらなる 植田かな
 蟻地獄 今朝も戦の ニュースより 小林  高木智念
 幽谷の 天岩戸の 落し文
 しきりなる 落花の無音 世界かな  横浜  永澤 功
 春秋や この身このまま 旅衣
 梅雨寒や 思はず袖を 伸ばしをり 町田  永野節雄
 ウオーキング 長袖着込む 走梅雨
 ピッケルの 男下り来る 班雪山  目黒  並木桂子
 雪残る 天下茶屋より 湖望む
 睦まじき 土耳の夫婦の 花筵 入間  藤井功風
 木戸文の 風に押されて 花筏
 神の島 富士をそびらに 初松魚 江の島  堀田裸花子
 マロニエの 花散る島の テラスかな
 囀に 深々浸る 露天風呂 小牧   松岡魚青
 引き抜きし 菜花離れぬ 鉢の数
 アルプスを 後盾とし 武者幟 浜松   宮本立男
 風の日は 風のなすまま 鯉幟
 現世の 我も過客や 遍路傘 船橋    天本宏太郎
 今少し 遠回りせる 花の宵
 友の墓 濡るる卯の花 腐しかな 大阪   石原一則  
 浚渫の 船を遠のく 通し鴨
 藤垂るる 池の澱みの 徒ならず 佐賀  一ノ瀬恵昭 
 筍の 頭を出してをり 砂置場
 こどもの日 靴新しき 三歳児 埼玉  岡崎布喜子 
 掘り立ての 筍届く 休養日
 葉桜や 露店の並ぶ 札所寺 神戸   鬼本英太郎 
 大南風 沖に横たふ 淡路島
 翡翠の 一閃の瑠璃 美しき 相模原 折口桂子
 閉店の 老舗書店 街薄暑
 雪柳 道に映えゐる 白さかな 埼玉  川村和栄 
 行春や ライトアップの 如来像
 縺れ落つ 蝶を受けゐる チューリップ 今治  畴谷白波 
 薫風に 誘はれゆく 試歩の道
 竹秋の 山裾をゆく 一輌車 あきる野  小和田一男 
 旅ごころ 北へ北へと 桜かな
 宝前に 絵馬の揺れゐる 若葉風 選者  有馬澄廣

令和4年5・6月号より 
 早朝の 濃霧の隠す 今治城 今治  畴谷白波
 霧霽れて 先づ伸び上がる 天守閣
 花菜風 弾みくるやう 内房線 館山  斎藤一向
 木造りの 老舗和菓子舗 雛あられ
 一斉に 首上げ鶴の 引く刻か 小林  高木智念
 阿蘇五山 紫煙にけぶる 野焼かな
 剥落の 仁王のまなこ 木の芽雨  横浜  永澤 功
 白梅の 一輪づつの 矜持かな
 侘助を 誰が供へしか 道祖神 町田  永野節雄
 靴下を 重ね履きゐる 余寒かな
 目白どち 出入り自由な 餌台かな  目黒  並木桂子
 雪洞の やうに膨み 桃咲けり
 テレビ塔 浮かせ棚引く 霞かな 入間  藤井功風
 一斉に 動き初めたる 木の芽山
 老梅の 思ひがままの 白と紅 江の島  堀田裸花子
 春陰や 賢治の詩碑に 奮ひ立つ
 数見せて 吉報のごと 実万両 小牧   松岡魚青
 老いてなほ 夢大いなる 兄の春
 城下なる 故郷真壁の 雛祭り 浜松   宮本立男
 世代雛 見せてもてなす 蔵の町
 底冷や 燭のゆれつぐ 籠堂 船橋    天本宏太郎
 疫病や 人をへだてて 寒に入る
 老いぬれば 想い出手繰り 雛飾る 四街道  生嶋千代女
 妹背山 芽吹きの色の 滲み来し
 てんびんの 近江商人 雛館 大阪   石原一則  
 子の無病 願ふ薬包 吊し雛
 底冷の 酒蔵通り 鮒の市 佐賀  一ノ瀬恵昭 
 船はるか 有明の海 風光る
 探梅や 野路ゆく歩み 弾みをり 埼玉  岡崎布喜子 
 梅の宮 往き交ふ人の 礼嬉し
 舟板を 廻らす旧家 御殿雛 神戸   鬼本英太郎 
 方丈に ただ一幅の 雛の軸
 艀船 行きつ戻りつ 運河春 相模原 折口桂子
 洋館の アーチの扉 花ミモザ
 武蔵野の 寒気厳しき 没日かな 埼玉  川村和栄 
 雪被る 越後連山 朝日射す
 老鶯や 政子の墓の 寂として 選者  有馬澄廣

令和4年3・4月号より 
 産土神へ 杖を頼りの 初詣 今治  畴谷白波
 独りして 米寿の屠蘇を 酌みにけり
 墨の香に 心洗はる 初硯 館山  斎藤一向
 蕾添へ 水仙活けある 山の宿
 なまはげの 闇より現るる 叫び声 小林  高木智念
 三年も 会へぬ子らより 初電話
 凩や 煌々として 埠頭の灯  横浜  永澤 功
 冬霞 汽笛遠くに 消えゆけり
 柚子香る ウオークの後の 湯船かな 町田  永野節雄
 元朝や 日課のウオーク 捨てられず
 初雪や 静もり在す 六地蔵  目黒  並木桂子
 寅年の 松納めたる 門を掃く
 初明り 北の防人 たりしころ 入間  藤井功風
 初場所や いつもの席に 艶姿
 獅子舞の 富士をそびらに 渡り来る 江の島  堀田裸花子
 満潮に 呑まれて果つる 磯どんど
 香の残る 藁青々と 注連作 小牧   松岡魚青
 一葉とて 止めぬ柿の 落葉かな
 寄り添ひて 筑波二峰の 眠りけり 浜松   宮本立男
 発破跡 あらはに加波嶺 寒に入る
 帰り花 老いの身 人の恋しかり 船橋    天本宏太郎
 深呼吸 して磴登る 菊日和
 風花や 砂紋整ふ 僧の作務 四街道  生嶋千代女
 辻地蔵 塔婆に冬日 濃かりけり
 マンションの ドアの輪飾り 朝日浴び 大阪   石原一則  
 産土に 長蛇の列や 去年今年
 落ちてなほ 色褪せるなき 紅椿 佐賀  一ノ瀬恵昭 
 内庭の 真白き梅の 盛りなる
 添書に 百七歳てふ 賀状かな 埼玉  岡崎布喜子 
 羽子をつく 音懐かしき 小路かな
 初旅や 縁切寺は つづまやか 神戸   鬼本英太郎 
 鎌倉は 谷戸多き街 淑気満つ
 野の香り 厨にほのと 薺粥 相模原 折口桂子
 粛々と 氏神詣づ 松の内
 群れ咲くも 香の仄として 冬の薔薇 埼玉  川村和栄 
 建設工事の 苑に青々 冬の草
 初凪や 真砂にまみれ 碇綱 選者  有馬澄廣

令和4年1・2月号より 
 小春日や 薔薇の風入れ 資料館 相模原  折口桂子
 日の匂ひ あふるる園の 蜆蝶
 休田の 畦に列なす 秋桜 埼玉  川村和栄
 稲妻や しとどの雨の 道叩く
 内房の 電車は二両 小六月 館山  斎藤一向
 遮断機の 降り来る車窓 枇杷の花
 追ひ越され 追ひ越してゆく 萩の路 今治   畴谷白波
 運命に 長短ありて 秋日落つ 
 田の神様 手持無沙汰や 神渡し 小林  高木智念
 菜を刻む 音の変はりて 今朝の冬
 馬車道の 瓦斯灯点る 時雨かな  横浜  永澤 功
 冬霞 汽笛遠くに 消えゆけり
 風の無く 冬立つ朝の ほのぬくし 町田  永野節雄
 日の燦と 冬立つ朝の ウオーク路
 海原を 俯瞰の庭に 鰯干す  目黒  並木桂子
 窓開く 島の分校 海の秋
 朴落葉 膝と嵩なす 社家の庭 入間  藤井功風
 木枯や 木曽の山肌 ざわつかせ
 朝の日に 煌めく浦の 小春凪 江の島  堀田裸花子
 時雨るるや 延寿の鐘の 染み入りぬ
 一句得る までは崩れず いわし雲 小牧   松岡魚青
 足るを知る 余生のくらし 冬支度
 玉砂利の 箒目しるき 神無月 浜松   宮本立男
 貼り替へし 障子に残す 猫出口 
 健忘に なやめど心 爽やかに 船橋    天本宏太郎
 清貧を とほす余生に 天高し
 借景の 紅葉の庭の 鳥海山 四街道  生嶋千代女
 廻船の 栄えし酒田 町小春
 銀杏の 葉小さくなりをる 報恩講 大阪   石原一則  
 冬近し 野飼の鶏の 声遠し
 秋霖や 物音の無き 村社 佐賀  一ノ瀬恵昭 
 羅漢像の 虫を聴きをる 静寂かな
 山門に 袴凛々しく 七五三 埼玉  岡崎布喜子 
 メモを手に 秋の遠足 善光寺
 北山杉 背に杣家 蒲団干す 神戸   鬼本英太郎 
 杉の秀の 烟る北山 時雨かな
 茶の木咲く 山家の昼の 森閑と 選者    有馬澄廣

令和3年11・12月号より 
 硝子絵の 鉛の枠や 原爆忌 神戸   鬼本英太郎
 シベリアの 夜汽車の尾灯 天の川
 紫苑咲く 昭和名残の 佇まひ 相模原  折口桂子
 寺多き 谷中の路地の 昼の虫
 すつきりと 故山に懸かる 二重虹 埼玉  川村和栄
 遠雷や 雨迫り来る 夕まぐれ
 木犀の 香の漂へる 奥座敷 館山  斎藤一向
 農道の 轍を歩む 白露かな
 曼珠沙華 末裔つなぐ 平家かな 小林  高木智念
 草の露 源平もなき 供養の碑
 湖に 霧湧き富士を 烟らせり  横浜  永澤 功
 捨畑の 蝶噴きあぐる 炎暑かな
 献杯に 亡き人偲ぶ 蝉時雨 町田  永野節雄
 ウオーク阻む 秋雨殊に 疎ましき
 晴々と 一透句碑に 葛香る  目黒  並木桂子
 滝道に 直売所あり 葛垂るる
 暗き世の 邪気払ふかに 唐辛子 入間  藤井功風
 唐辛子 緋となり干さる 山家かな
 汐入や 鯔跳ねてゐる 澪標 江の島  堀田裸花子
 断捨離の 出来ぬしがらみ 竹を伐る
 妻の愚痴 聞いて咽せゐる 心太 小牧   松岡魚青
 姿なき 蝉の声追ふ 孫の声
 円墳の みささぎ囲む 曼珠沙華 浜松   宮本立男
 この辺り 砦の跡や 曼珠沙華
 三輪車 置き忘れられ 夕焼くる 船橋    天本宏太郎
 もう誰の 声の聞こえぬ 水遊び
 秋茜 江戸の名残の 船着場 四街道  生嶋千代女
 晴れわたり 籾倉跡の 秋桜
 点々と 波紋を残す あめんぼう 大阪   石原一則  
 鉄橋の 音に紛れず 虫鳴ける
 凌霄花の 傾ぎ歩道へ 散り敷ける 佐賀  一ノ瀬恵昭 
 昼灯す 山家の閑と 植田かぜ
 焼きたての パンの朝餉に 小鳥来る 埼玉  岡崎布喜子 
 ちぐはぐな 孫との会話 夕とんぼ
 白萩に 風通ひ来る 石仏 選者    有馬澄廣

令和3年9・10月号より 
 かまきりの 生るを見詰め 下校の子 埼玉  岡崎布喜子
 端然と 雲海に聳つ 榛名富士
 飛石の 布置の涼しき 苔の庵 神戸   鬼本英太郎
 写経会の 延命十句 蓮咲く
 くわいちご 礎石の遺る 農学校 相模原  折口桂子
 梅雨晴や クレーン高く 高く伸び
 梅雨明や 土蔵の窓を 開け放ち 埼玉  川村和栄
 越後平野の 風に靡ける 青田かな
 夏帽子 同期の隊友の 挙手の礼 館山  斎藤一向
 梅雨晴や 潮目境の 漁船
 田の隅の 背丈劣らぬ 余り苗 小林  高木智念
 霊山の 水を頒ちて 棚田植う
 産土神の 青き匂ひの 茅の輪かな  横浜  永澤 功
 梅雨滂沱 モノクロームに 沈む波止
 荒梅雨や 日課のウオーク 滞り 町田  永野節雄
 梅雨晴や 朝日浴び行く 遊歩道
 干潮に 天草浮かぶ 荒磯かな  目黒  並木桂子
 浜小屋に 吊る天草の 半乾き
 滝風に 朽葉の舞の きりもなし 入間  藤井功風
 木洩れ日の 差すひとところ 夏蕨
 海開き しても客足 ままならず 江の島  堀田裸花子
 夕闇に 心和ます 月見草
 麦秋の 風の匂へる 無人駅 小牧   松岡魚青
 軽やかな 木魚の音や 沙羅の雨
 長屋門 残る本家の 立葵 浜松   宮本立男
 不如帰 濁世を嘆くかに鳴ける
 しみじみと 新茶汲みゐる 老の午後  船橋    天本宏太郎
 若き娘の 襟足美しき 更衣 
 青梅雨や 仁右衛門島の 模糊として 四街道  生嶋千代女
 渡舟発つ 案内の船頭 日焼顔
 梅雨寒や 辿り着きたる 接種会場 大阪   石原一則  
 梅雨明や 吾子転勤を 告げに來る
 下闇や 寂れしままの 噴井かな 佐賀  一ノ瀬恵昭 
 しなやかに 樹下に揺れゐる 額の花
 丈違へ 揺れ継ぐ蓮の 風を呼び 選者    有馬澄廣

令和3年7・8月号より 
 鶯の 上手に鳴ける 峠かな 佐賀  一ノ瀬恵昭
 咲き満てる 花に取り付く 渓の風
 鰻屋へ 人の列なす 小江戸かな 埼玉  岡崎布喜子
 見はるかす 野を風渡る 金魚草
 老鶯や 谿音近き 深山寺 神戸   鬼本英太郎
 花いばら 石積遺す 廃寺跡
 浮灯台 大きく揺らぎ 青葉潮 相模原  折口桂子
 相模野の 開拓の碑や 麦の秋
 蔵屋敷跡の 万朶の 桜かな 埼玉  川村和栄
 参道に 可憐に映ゆる 花海棠
 散りしきり 花筏組む 野川かな 町田  永野節雄
 コロナ禍や 初夏の外出の ままならず
 霊峰の 日々に青める 五月晴れ 今治    畴谷白涛
 リハビリに 励む愛杖 初夏の音
 断捨離を 未だ果たせず 更衣 館山  斎藤一向
 母の日や 針孔に糸 残りをり
 新茶摘む 嘗て特攻 発ちし地に 小林  高木智念
 柏餅 包む手の窪 母譲り
 無住寺に 香の漂へる 朴散華  横浜  永澤 功
 ひらひらと 水の奈落へ 竹落葉
 さざれ石 囲み緋牡丹 解れ初む 目黒  並木桂子
 照り翳る 日に膨らめる 白牡丹
 白粉花に 頭を浮かせたる 辻地蔵 入間  藤井功風
 鮎の川 竿はね上がる こともなく
 石棺に ファラオの目覚め 夏来る 江の島  堀田裸花子
 老いらくも 旅の途中や 初鰹
 槍衾 ごと鈴蘭の 庭を占め 小牧   松岡魚青
 菜の花や 鴉先立つ 耕耘機
 残雪の 嶺々を遥かに 信濃ゆく 浜松   宮本立男
 フォツサマグナの 貫く信濃 花林檎
 肩のこり ふと軽くなる 春うらら  船橋    天本宏太郎
 疫病の 感染止まぬ 春愁 
 町名に 城下の名残 風薫る 四街道  生嶋千代女
 芳香の 飛騨なつかしき 朴の花
 押し照るや 難波の初夏の 渡船 大阪   石原一則  
 橋代わりの 小さき渡船に 南風吹く 
 菖蒲湯に 細き腕を 摩りをり 選者    有馬澄廣

令和3年5・6月号より 
 瓜実の 顔清し 享保雛 大阪  石原一則
 桟敷窓 覗けば在す 古雛
 風光る 干潟の穴の 点々と 佐賀  一ノ瀬恵昭
 マスクして 人違ひなる 会釈かな
 梅東風や 港町見ゆ 風見鶏 神戸  鬼本英太郎 
 石仏の 畦に傾げる 花菜畑
 ものの芽や 友との出会ひ 愉しかり 埼玉   岡崎布喜子
 草餅を 大きく包む 小さき掌
 正倉院 模せる館の 梅白し 相模原  折口桂子
 雛飾る 国宝館の 明り窓
 人知れず 花八手揺れ 大藁屋 埼玉  川村和栄
 北風の 募る武蔵野 闇深き
 夜もすがら ベランダ見廻る 春嵐 町田  永野節雄
 密を避け 彼岸の墓参 修めけり
 梅園に 憩ふ竹椅子 昼の月 館山  斎藤一向
 探梅や 瀬に置かれある 渡り石
 渦潮の 渦の相撲つ 塩煙 小林  高木智念
 田の神の 化粧新たや 畦を塗る
 夕東風に 点す瓦斯灯 港町  横浜  永澤 功
 音の無く つづく点滴 冴返る
 一穢なき 空へ挙れる 白木蓮 目黒  並木桂子
 雛の日の ピアノ教室 賑々し
 蓬生ふ 畔に黄色の 子供靴 入間  藤井功風
 朝東風や 駿馬の牧を 繕へる
 春暁の 禅道場の 凛として 船橋  天本宏太郎
 寒月の 濁世離れて 冴えにけり
 糸遊や 砂に拗れる 浜簀垣 江の島  堀田裸花子
 対岸に 鳴る梵鐘や 朝がすみ
 梅咲きて 近しと思ふ 風生忌 小牧   松岡魚青
 年の豆 手に余るほど 生きて来し
 曲り角 多き城下や 燕飛ぶ 浜松  宮本立男
 見廻りの ライトを過ぎる 浮かれ猫
 やはらかき 光乗せゐる 芹の水 四街道  生嶋千代女
 どつと咲く 白木蓮の いきぢかな
 春の宵 孫を相手の 指角力 選者   有馬澄廣

令和3年3・4月号より 
 忽と現れ 忽と消えゆく 時雨虹 四街道  生嶋千代女
 蝋梅や 袖垣に影 鮮らけく
 枯草の 屋根に吹かるる 鐘撞堂 佐賀  一ノ瀬恵昭
 冬日射す 鎮守の社 蒼然と
 元朝の 慈眼賜る 如来尊 神戸  鬼本英太郎 
 門前の 老舗の昆布屋 松飾
 火を囲み 氏衆揃ふ 初詣 埼玉   岡崎布喜子
 朝市や 白菜嵩なし 積まれをり
 神木の 老幹に満つ 淑気かな 相模原  折口桂子
 程々の 幸を願ひて 破魔矢受く
 穏やかに 生きむと願ふ 初社 埼玉  川村和栄
 医療現場 切迫憂ふ 去年今年
 病窓に 仰ぎし月の 冴えわたる 町田  永野節雄
 柚子香る ウオークの後の 朝の風呂
 初日待つ 人影動く 野島崎 館山  斎藤一向
 良き年と なる予感あり 四方の春
 手返しに 餅搗の息 合つてきし 小林  高木智念
 雪の夜の 熱きだご汁 母の味
 仏間まで 開け放たるる 小正月  横浜  永澤 功
 寒月の 五右衛門風呂へ 射してをり
 晴々と 門前町の 松飾 目黒  並木桂子
 拝殿の 脇の日向の 梅早し
 畝筋に 根深の影の 濃かりけり 入間  藤井功風
 せせらぎに 誘はれゆく 冬の蝶
 年の暮 知足の生活 淡々と 船橋  天本宏太郎
 湯豆腐や 酒の思はず すすみけり
 初富士や 蜑の小屋より 鳶の翔つ 江の島  堀田裸花子
 灯台の 白鮮らけき 初景色
 大鍋に 大根音立て 踊りをり 小牧   松岡魚青
 初雪や 酒蔵廻る 草履跡
 門松に 威厳を正す 旧家かな 浜松  宮本立男
 国訛り ぽろりとこぼる 初電話
 鶯や 藁屋の背戸の 日のぬくし 選者   有馬澄廣

令和3年1・2月号より 
 佳き友に 再会したる 良夜かな 船橋  天本宏太郎
 露の世の 余生愚直に 生き抜かむ
 千円の 頭芋並べ 一の酉 四街道  生嶋千代女
 一の酉 バスの天井 擦る熊手
 電線の 高さに縺れ 秋の蝶 佐賀  一ノ瀬恵昭
 初鴨の 早瀬の波に 見え隠れ
 秋彼岸 墓参叶はぬ 身のかなし 杉並  江川大二郎 
 語り合ひ 時に黙せる 秋深し
 再会の 嬉しき涙 小鳥来る 埼玉   岡崎布喜子
 雲流れ 風蕭条と 黄落す
 駄菓子屋の 手書きの値札 一葉忌 相模原  折口桂子
 大根洗ふ 手の甲赤く ふくらめる
 コロナ禍の 終息見へず 秋深む 埼玉  川村和栄
 句の友と 句談義弾む 芸術祭
 会話なき 妻と聴きをる 虫の闇 今治  畴谷白涛
 立冬や 静かに踏みし 今朝の霜
 山城の 天守烟ふ 夕時雨 館山  斎藤一向
 手馴れたる こと一つづつ 冬用意
 身すがらの 浅黄斑に 雁渡し 小林  高木智念
 神杉の 注連縄は這はずに 蔦黄葉
 クルーズ船 桟橋離る 霧深し  横浜  永澤 功
 ベイブリツジ 潜りてよりの 秋燕
 玉垣を 迫り出し咲ける 杜鵑草 目黒  並木桂子
 神の杜 そこはかとなく 冬に入る
 秋明菊の 香の仄かなる 信濃かな 入間  藤井功風
 遠目にも ひと葉落ちゆく 柞山
 白菊の 臈たけ香る 日和かな 新座  船田藤三郎
 秋澄むや 安宅関の 静もれる
 島の子の 囃子を復習ふ だけの秋 江の島  堀田裸花子
 コスモスの 虚空に揺るる 彩として
 水平線まで 広がりし 鰯雲 小牧   松岡魚青
 隠れゐる ごとく池畔の杜鵑草
 若き日の 夢は果敢や 冬薔薇 浜松  宮本立男
 冬に入る 山の話の 尽きぬ友
 初社 媼杖曳く 男坂 選者   有馬澄廣

令和2年11・12月号より 
 辷りても 跳ねても飽きず 水馬 相模原  天野たけし
 葦むらの 吹かれて蒲の 穂の覗く
 白妙の 秋水落す 滝すだれ 小林  高木智念 
 伏見港 栄華は昔 蘆の秋
 遺言に 延命無用と 涼しく居 船橋  天本宏太郎
 疫病や 気力失せゆく 残暑かな
 新涼や コロナウイルス 魔除札 習志野  江口景舟
 便り書く 手首にまつはる 暑さかな
 師の在さぬ 庭と知らずに 小鳥来る 目黒   並木桂子
 露草の 瑠璃濃きことを 命とす
 身の丈に 適ひし生活 赤のまま 相模原   折口桂子
 山間の 和紙漉く里や 立葵
 蝉の声 鬨の声めく 城址かな  館山  斎藤一向
 深刻な ことはさておき 胡瓜揉む
 かなかなの 渓の水面を 震はせり 入間   藤井功風
 渓声に ひたりけざやか 秋海棠
 山城に 乱世を偲ぶ 曼珠沙華 四街道  生嶋千代女
 名月を 仰ぎ木曽路の 峠越え
 水澄むや 川面に映ゆる 穂高岳 浜松  宮本立男
 赤とんぼ 飛び交ひ筑波嶺 暮れそむる
 花芙蓉 目当てに訪ひし 老舗宿 小牧  松岡魚青
 愛想良き 宿の女将の 鮎尽し
 闇に咲く 月下美人に 端座せる  今治   畴谷白波
 白く咲き 暮れて紅さす 酔芙蓉
 池の端に 翡翠瑠璃を 閃かせ 佐賀  一ノ瀬恵昭
 森深き 池に散り込む 夏落葉
 星月夜 腰痛癒やす 露天の湯 新座  船田藤三郎
 立秋や コロナの勢ひ 衰へず
 二百十日 恙なきこと 願ひをり 埼玉  川村和栄
 夏草の 車窓に茂る 三国越え
 山頂に 行厨開く 吾亦紅 埼玉  岡崎布喜子
 雨の音 やさしき窓辺 梨を剥く
 湯上りに 冷たき麦茶 欲しいまま 杉並   江川大二郎 
 目薬を 差せば御堂の 灯涼し
 マスク着け 極暑に耐ゆる 八十路かな 町田  永野節雄
 湯上りや 喉越しの良き 氷水
 コスモスに 風立つ入江 潮満ち来 選者   有馬澄廣
       
 令和2年9・10月号より
 寺男 手甲きりりと 草を引く 佐賀  一ノ瀬恵昭
 緑蔭や 確と扉を鎖す 太子堂
 一湾に 朝の虹立つ 桜島 小林  高木智念
 青笹や 鮎の背越しの 透きとほる
 明易や 楽しき旅と なる予感 船橋  天本宏太郎
 心まで 染み入るごとく 若葉映ゆ
 校庭に 声の弾みて 朴咲けり  目黒  並木桂子
 時の日の 女教師の 声溌溂と
 大切に 納めて黴に 見つけられ 習志野  江口景舟
 夏草や 二日遅れの 筋肉痛
 泣き地蔵 秘める御堂の 涼しかり 相模原   天野たけし
 寺畑の はつかな畝の 茄子の苗
 新茶汲む妻の遺愛の伊万里焼 館山   斎藤一向
 梅雨の灯や 古代を偲び 繰る風土記
 星の竹 子等の願ひに 撓みをり 相模原   折口桂子
 オルガンの 何処か懐かし 星祭
 青嶺なす 穂高槍岳 剱岳 浜松   宮本立男
 残雪の 穂高嶺祓ふ 山開
 多知夜麻は 神の山とや 雲の峰 入間   藤井功風
 虎尾早や 立山開山 御廟なる
 風立ちて 濡れ色こぼす 濃紫陽花 小牧   松岡魚青
 桑の実の 熟るる匂ひや 俄雨
 句心を 濡らし紫陽花 慈しむ 今治  畴谷白涛
 豪雨にも 耐へ抜く試練 額の花
 鉢巻の 捻り凛々しき 祭衆 四街道  生嶋千代女
 遊覧船 佃大橋 潜りゆく
 夏料理 父祖の愛せし 地酒酌む 新座  船田藤三郎
 梅雨明や 木々も小鳥も 晴々と
 五月晴 雲燦然と 富士聳ゆ 杉並   江川大二郎
 湯疲れを 麦茶に癒す 至福かな
 七福神の 参道に揺れ 濃紫陽花 埼玉   川村和栄
 人々の 避難の続き 梅雨深し
 夏至の雨 ひとり寛ぐ テイタイム 埼玉  岡崎布喜子
 通学路 旗振る人の 夏帽子
 早朝の アスリート増ゆ 青田道 町田  永野節雄
 草払ふ 農の忙しき 梅雨晴間
 夕風に 露転びゐる 蓮浮葉 選者   有馬澄廣

  令和2年7・8月号より
  汐入の 川を眼下に 藤揺るる 館山  斎藤一向
  ふるさとの 手摘み手揉みの 新茶かな
  熔岩掴み 楚々と自生の 朝ざくら 小林  高木智念
  春夕焼 襞あらあらし 桜島
  茅葺の 小屋の閉さるる 花菜畑 佐賀  一ノ瀬恵昭
  晴れ渡る 苑に落花の しきりなる
  相愛の 筑波二峰の 朧月 浜松  宮本立男
  朧夜の 筑波貫く 恋瀬川
  花吹雪 一期一会の 茶会かな 船橋   天本宏太郎
  春眠や 夢の架橋 渡り行く
  金木犀の 香りに齢 重ねをり 習志野  江口景舟
  狭庭にも 日和を待てる 花水木
  介護士と 杖曳き憩ふ 花の昼 目黒  並木桂子
  麒麟麦酒 本社跡てふ 花の山
  外灯に 桜の泛ぶ 闇深し 相模原  天野たけし
  砂防林に 声やはやはと 鴉の子
  水車小屋 久に閉ざされ 竹落葉 相模原  折口桂子
  厨へと 運ぶ筍 土零す
  交番に 泥継ぎ足せる 燕の巣 小牧  松岡魚青
  顔の泥 拭ひて畦を 塗り込める
  茶摘機の 音清晨の 彼方より 入間   藤井功風
  輪郭を 赤らめ遠の 樫若葉
  仁王像 眼光和む 花吹雪 今治  畴谷白涛
  コロナ禍に 人影のなく 春嵐
  音たてて 岩削り落つ 雪解滝 四街道  生嶋千代女
  重さうに 垂れ八重桜 地に触るる
  うららかや 和顔に座す お釈迦様 新座  船田藤三郎
  しらじらと 揺るる五弁の 梨の花
  庭の卓 囲み牡丹の 咲き継げる 埼玉  岡崎布喜子
  山寺の 結界しるき 竹の秋
  春泥を 浴びし子母に 縋りをり 埼玉  川村和栄
  上野山 時疫に自粛 花冷ゆる
  崖に日を 浴びほのと 朝桜 町田  永野節雄
  鯉の波紋 広がる河岸に 花菜揺れ
 すみれ草 見守り笑める 羅漢像 杉並   江川大二郎
  尾を残し 石に隠れし 青蜥蜴
  夕風に 花菜揺れ継ぐ 堤かな 選者   有馬澄廣